ウェッジ4月号の特集記事「さらば生産性後進国」の中に日本の労働生産性は、米国の50-70%と書かれていました。昔から言い古されたことですが、政府がいう「働き方改革」で突然に変えられるのでしょうか、はなはだ疑問ですね。新卒女性の自殺事件からも、何もしない訳には行かなくなったからでしょうか?

 (注)労働生産性とは、1人の労働者が1時間に生み出す実質付加価値額のこと。控除法では、売上高から外部購入額を差し引いて計算。

  「働き方改革」できないのは、太平洋戦争での日本軍、山一証券の破たんなど、その原因は言い尽くされています。それなのになぜ、60年以上も変えられないのでしょうか。私の企業経験から、少し論じてみましょう。日本企業がグローバル企業に成れないのも、同一の根本的原因からです。

1.企業内で用語が通じない

業務用語が通じない

  ある大企業のコンサルをしている時に、「納期の会議」に呼ばれて出席しました。各事業部からの出席のもと、2時間後に分かったことは、「納期という用語の意味が各事業部によって全て違う」ということだけ。出席者は、皆、あの会議は何だったんだと。プラント系の会社は、コンビナートごとに全て用語が違うとは言うけれど。

  納期には、顧客要求納期とかそれに対する回答納期とか、種々の異なる意味を持つ用語があります。トヨタ系企業に行った時に、うちの納期遵守率は99%だと威張っていましたが、よくよく聞いてみると、顧客要求ではなくそれに対する回答納期の遵守率でした。自分で約束した納期なのに、100%でないの? と私は疑問でしたが。

経営や業務の機能用語が通じない

  ある巨大企業の経営幹部の会議で、数年かかってプロセス参照モデルが浸透して、ようやく日本語が通ずるようになったと。それまでは、幹部によって、たとえば商品開発をマーケティングに含めて考える人もいれば、別々に考える人もいたと(当然、これでは会議や議論になっていませんね)。社長から部長まで、同一用語で会議できるまでに5年がかかったと。

用語集がない

  納期という業務用語も、商品開発という機能やプロセスの用語も、企業内に用語集として定義されていれば済む話です。あなたの会社には、用語集がありますか? 皆が納期やマーケティングを同じように解釈していますか? プロモーションは? 大手電機会社に「調達センター」なる部門があり、そこをインタビューしたら、業務内容は調達よりかなり狭い購買でした。ならば、部署名は「購買センター」にすべき。

2.無駄な保険仕事

無駄な会議

  これらの事例を笑う人は、社内で上記の質問をしてみて下さい。全く、同様ですよ。したがって、会議が会議にならない、現状報告を延々として、何を決めるか全員が分かった頃、会議は終了時間。

  私は、サラリーマンの●●●部長時代には、会議の半分は欠席することにしていた。後で、他の部長に「会議で何があったの?」と質問すれば、1分間くらいで済むので全く困らない。しかし、仕事をしたフリをしたい人には、会議・会議は好都合。

保険仕事

  用語集がなければ、あの役員の発言や指示はどういう意味だろうか? あれかも知れない、これかも知れないと悩んで、「減点となる追究を受けないため、無駄かもしれない保険仕事をする羽目に」。

  実際に、売上2兆円くらいのメーカーで、社長が「〇〇〇とぶち上げた」。ところが、〇〇〇の意味が浸透・共有されていないため、各事業部長はそれを理解できず、きっとこんな意味だろうと勝手な憶測と拡大で解釈。こうして、保険仕事が増えていく。

  保険仕事の根本原因は、曖昧な評価基準による減点主義。減点されないため、無駄な保険仕事をする。まぁ、企業内での保険仕事は、3割位はあるでしょうと想像します。上がそうなので、下にそれが降ろされて、企業内に増幅されていく。はやりの言葉でいえば、下位層は消極的忖度、上位層にいくほど積極的忖度

      米国でならば、曖昧な評価基準で評価されれば、泣き寝入りなどあり得ず、直ぐに裁判を起こされます。人種で差別された、年齢で、性別でと。

3.非明示的管理方式

 「企業内の各組織の役割・機能、それを担う個人の役割・責任」という企業活動全体が「見える化」されていなければ、幹部会議で議論もできないし、個人の評価も出来ません。

  そもそも、明確な文書なし以心伝心でというのは、常に会話が可能な職場環境(時間や地理)で成立するものです。時間でいえば、長時間労働が可能な正規社員だけが適応可能。地理でいえば、日本本社と海外出先の非日本人との間では成立しません。日本企業がグローバル企業になれないのは、これが主な原因です。

  これら1、2、3を温存したまま、「働き方改革」ができるのでしょうか? 

  古いサラリーン川柳 「上がファジーだと下はビジー」

4.働き方改革するには  

  労働生産性(一人の労働者が生み出す付加価値額 ÷ 一人の総労働時間)を向上させるには、労働が無駄なく(分母を減らし)、かつ効果的に付加価値に直結する(分子を増やす)ことです。個人の生産性を向上させる=働き方改革(個人編)だけでなく、上述した企業の仕組みを改革=働き方改革(組織編)しなければ不可能です。上述した代表的な問題点は、長時間労働による肉体的疲労だけでなく、自分の責任範囲が分からないなどの精神的疲労も生み出しています。過労死の原因は、肉体的疲労だけでしょうか? 

  改革せずに残業時間の制限をかければ、間違いなく付加価値が減り企業の売上も減少します。そして、労働者個人の肉体的疲労は減少しても、不安による精神的疲労はむしろ増大するでしょう。

  その上、これはシステム思考でいう「問題のすり替え」であり、残業時間の制限という対症療法的な解決策が「企業の売上を減少させ、結果として労働者の所得も減る」ことでさらに大きな問題を引き起こします。

  ⇒働き方改革の第一歩は仕事の「見える化」(ランチェスターの法則から)