東京大学大学院経済学研究科教授 藤本隆宏氏が「製造現場力の低下と"不正発覚"は関係ない」と述べています。尊敬する高邁な藤本教授に反論など出来ませんが、製造現場を「種々の現場」と拡張して考えてみたいと思います。

1.「非明示的管理方式」の破綻の一部例

  日本的経営の特質といわれ、業務用語集や業務ドキュメントがなく暗黙的に業務を実施する方式です。高度成長期は効率化に寄与しましたが、1990年以降は実質的に破綻しています。

(1)20年前:存在する筈のIT機能が引き継がれない

     ある企業の業務現場で新たなITシステムへの要求が上がってきました。たまたま親側のITシステム会社に現在のITシステム構築に携わった者が居て、「おかしいな、その機能はある筈」。結果は、業務ドキュメントが作成されていないため、業務の後任者がその機能が無いと思った次第。

(2)10年前:経営幹部会で用語が共通認識されない

     ある巨大企業の経営幹部会では議論が成立しませんでした。マーケティングに新製品の構想・企画を含める人も居るし、別々に考える人も居ましたので。

     別の巨大企業の社長の新聞談話を各事業部長が理解できない。結局は、社長の言葉を忖度、拡大解釈して膨大なムダな施策を考えることに。

(3)5年前:業務の目的が分からない

     ある企業の情報システム部門が業務現場の担当者に「何の目的でその業務をやっているのか」と質問すると、業務担当者は「課長からやれと言われたから、やっています」と回答。その課長に同じ質問をしたといして「前任者から引き継いだだけです」と回答がきたら?

(4)現在:ユーザ側でIT要求を定義できない

     IT企業は、要件定義と称したWBSを実施する際に、ユーザ企業側の業務要件(=IT要求)定義力が弱く困っています。これは、業務ドキュメントがないために業務担当者が代わる度に「現場力が低下」してしまうからであり、ITだけの病状ではありません。

2.「非明示的管理方式」から脱却が必要

  用語集や業務ドキュメントがない「非明示的管理方式」からは、以下のような大きな弊害があります。景気が良くなったと浮かれている場合ではありません。

 (1) 業務担当者が交代する度に現場力が劣化    

  高度成長時代のように切れ目なく新人が入っては来ず、先輩の背中を見て仕事ができません。先輩は10歳以上の年上であり、後輩からはちっともその背中が見えません。

  調べようと思っても、業務ドキュメントや標準プロセスはありません。したがって後輩が質問すると、今度は先輩ごとに回答が異なります(電通の高橋まつりさん)。

 (2) 時間当たり生産性がOECD中22位という低生産性  

  重複した仕事や欠落した重要な仕事が存在します。効果の小さい2重チェックや例外処理の無駄など、業務ドキュメントがないためチェックできず、そのまま放置されます。当然「見える化」されていないから。

 (3) 死傷事故の発生

  コンビナートでの爆発事件の後、社長が「業務手順を間違えた」と謝罪。この企業で再び事故発生したのは当然。業務手順は機能の欠落ではありません。この言葉を使用する前に広辞苑を引いた?

 (4) 品質偽装問題の発生             

  仕掛品は品質証明書があって初めて製品になります。このプロセスを定義した業務ドキュメントがないため、現場は偽装という意識がなく業務を習慣的に実施しただけ。ISOはどうやって認証された? 監査役や業務監査部門は機能した?

 (5) グローバル展開できず

      ビジネスプロセスを伝えられないため、結局は海外現地任せ。そうならないために大量の日本人スタッフが常駐せざるを得ない。すると現地の人は出世が望めず、優秀な人材は日系企業に入社せず。悪循環の繰返し。